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宮崎地方裁判所 昭和57年(ワ)1216号 判決

第一事件原告

八幡英樹

ほか一名

第二事件原告

ザ・ニュージーランド・インシュアランス・カンパニー・リミテッド

被告

金丸功司

主文

一  被告は、原告八幡英樹及び同八幡喬江に対し、それぞれ金二二万三六六八円及びこれに対する昭和五六年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告ザ・ニユージランド・インシユアランス・カンパニー・リミテツドに対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その一ずつを原告八幡英樹、同八幡喬江の各負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

(第一事件)

1 被告は、原告八幡英樹及び同八幡喬江に対し、それぞれ金九二二万円及びこれに対する昭和五六年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

(第二事件)

1 被告は、原告ザ・ニユージーランド・インシユアランス・カンパニー・リミテツドに対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年四月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(第一事件)

1 事故の発生

(一) 日時 昭和五六年三月九日午前三時二〇分

(二) 場所 宮崎県宮崎郡佐土原町大字下田島二四六三番地先国道一〇号線路上

(三) 被害車両 訴外亡八幡繁樹(以下、亡繁樹という。)運転の普通乗用自動車(宮崎五六に八四八四)

(四) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(宮崎五六に六四五一)

(五) 態様 被害車両が国道一〇号線を同県児湯郡新富町方面から宮崎市方面へ向つて下り車線を進行中、前記日時場所において、上り車線を対向して進行してきた加害車両と、下り車線側で衝突した。

(六) 結果 亡繁樹は右衝突によつて受けた傷害により、同日午前四時ころ死亡した。

(以下、本件事故という。)

2 責任原因

加害車両は、被告が自己の運行の用に供し、その運行による利益を享受していたものである。

3 亡繁樹の損害

(一) 逸失利益 金四四四四万円

(1) 亡繁樹の昭和五五年度の所得は金四〇七万円であつた。

(2) 亡繁樹は有限会社八幡勇建築事務所に勤務する一級建築士の資格を有する健康な四七歳の男性であり、同会社代表者八幡勇(当八二歳)の長男として事実上同会社を経営し、近々、同会社の代表者に就任する予定であつたところ、これらの諸事情を考慮すると今後二六年間は稼働可能であつた。

(3) 計算式

四〇七万円×一六・三七八九(二六年のホフマン係数)×三分の二(生活費控除)=四四四四万円(一万円未満切捨て)

(二) 慰藉料 金二〇〇〇万円

4 相続

原告八幡英樹(以下、原告英樹という。)は亡繁樹の長男であり、原告八幡喬江(以下、原告喬江という。)は亡繁樹の配偶者であるところ、亡繁樹の死亡により同人をそれぞれ二分の一ずつ相続した。

5 原告英樹及び同喬江固有の慰藉料

原告英樹及び原告喬江の地位は右4のとおりであるところ、その固有の慰藉料は各金二〇〇万円が相当である。

よつて、原告英樹、同喬江は、被告に対し、損害賠償として、各金三四二二万円から損害填補額(自賠責保険金一〇〇〇万円、任意保険金各金一五〇〇万円)を控除した各金九二二万円及びこれに対する不法行為の月である昭和五六年三月九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(第二事件)

1 第一事件ないし5と同じ

2 原告ザ・ニユージーランド・インシユアランス・カンパニー・リミテツド(以下、原告会社という。)は、自動車等の保険事業を目的とする株式会社である。

3 原告会社は、訴外有限会社八幡建築事務所との間で、昭和五五年八月一二日、被害車両を被保険自動車とする自動車保険契約を締結した。

4 原告会社は、右自動車保険契約の無保険車傷害条項(保険金額一億円)に基づき、原告英樹及び同喬江の損害金額が自賠責保険金による損害填補金額を上回つたため、右両名に対し、昭和五八年四月一三日、各金一五〇〇万円を支払つた。

よつて、原告会社は、被告に対し、商法六六二条に基づき、金三〇〇〇万円及びこれに対する代位の日の翌日である昭和五八年四月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(第一事件)

1 請求原因1及び2の事実は認める。

2 同3の事実は不知。

3 同4の事実は認める。

4 同5は、そのうち原告両名の身分関係は認め、慰藉料金額は争う。

(第二事件)

1 請求原因1に対する認否は第一事件と同じ

2 同2ないし4の事実は認める。

三  抗弁(第一、第二事件共通)

加害車両は中央線を越え、下り車線の中央線寄りで被害車両と衝突したものであるが、これは、被害車両が中央線をはみ出して進行して来たため、これとの衝突を避けるため、やむをえずとつさにハンドルを右に切つたことによるものである。

したがつて、被害車両の右はみ出し対進が本件事故の誘因であるから、亡繁樹の過失割合は少くとも九〇パーセントを下らない。

四  抗弁に対する認否(原告三名)

抗弁として主張する事実は否認し、過失割合は争う。

本件事故は、加害車両が一方的に下り車線に突込んで来たために発生したものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因事実は、亡繁樹の損害及び原告英樹、同喬江の固有の慰藉料金額を除いて、すべて各当事者間において争いがない。

二  そこで、右各損害について判断する。

1  亡繁樹の損害

(一)  逸失利益 金三七四四万七三三六円

(1) 成立に争いのない甲第三号証によれば、亡繁樹の昭和五五年中の年間収入金額は金四〇七万円であつたことが認められ、前記甲第三号証、原告八幡喬江本人尋問の結果によれば、右収入は亡繁樹の父訴外八幡勇の経営する有限会社八幡勇建築事務所(以下、訴外会社という。)からの給与によるものと認められる。

(2) 成立に争いのない甲第二、第三、第五号証、原告八幡喬江本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、亡繁樹は、本件事故当時満四七歳の男性であり、健康面に格別の問題はなく、一級建築士の資格を有して前記八幡勇の長男として訴外会社を事実上経営しており、訴外会社代表者への就任が予定されていたこと、これまで訴外会社の経営は順調に推移していたこと、亡繁樹の長男である原告英樹は本件事故当時、熊本工業大学に学び、昭和五九年四月からは建築関係の事務所に勤務していることなどの事実が認められる。

以上の事実によれば、亡繁樹は満六七歳までの二〇年間は前記(1)の収入の全額を、その後満七三歳までの六年間はその七〇パーセントの収入を得るものと認めるのが相当である。

(3) 計算式

4,070,000×12.4622(20年のライプニツツ係数)×2/3(生活費控除)=33,814,102(円未満切捨て)

4,070,000×1.9129(26年のライプニツツ係数-20年の同係数)×2/3(生活費控除)×0.7=3,633,234(円未満切捨て)

33,814,102+3,633,234=37,447,336

(二) 慰藉料

前記認定の事実及び当事者間に争いのない事実を総合すると、慰藉料は金一一〇〇万円をもつて相当と認める。

2 原告英樹及び同喬江の固有の慰藉料 各金一〇〇万円

前記1(1)、(2)で認定した事実及び亡繁樹が一家の支柱であつたこと等を考慮すると、原告英樹及び同喬江の固有の慰藉料は各金一〇〇万円をもつて相当と認める。

三  次に抗弁について判断する

被告は、その本人尋問において、抗弁として主張する事実に沿う供述をし(以下、被告供述という。)、成立に争いのない甲第九号証には、被告が司法警察員による本件事故に関する実況見分に立会い、右と同旨の指示説明をしている旨が記載されている。

しかし、前記甲第九号証及び被告供述によれば、被告は、中央線をはみ出して来る被害車両を発見するや、即時にハンドルを右に切つて衝突を避けようとしたというのであり、これによれば、そのハンドル操作は、とつさの反射的な行為と認められるところ、このような場合、ハンドルを左ではなく右に切るということは極めて不自然というほかはない。

また、被告は、下り車線の中央部からやや中央線寄り(甲第九号証添付の現場見取図〈×〉印)において、加害車両の左助手席ドア付近と被害車両の左前部とが衝突したと主張するのであるが、その両車の位置関係は、衝突地点においてでさえ、被害車両がわずかに(車幅の半分程度)上り車線側にはみ出しているにとどまるところ、被告供述によれば、被害車両は異常と思えるほど中央線をはみ出して上り車線側に進入してきたというのであり、被告がかように感ずるほど被害車両のはみ出しがあつたとすれば、現場付近の道路状況(片側の幅員三・三メートル、路側帯の幅約一メートル、被害車両の進行方向へやや左カーブ)を前提とすると、衝突は被告主張の位置より上り車線側で起きるものと考えるのが自然である。

さらに成立に争いのない甲第八号証によると、被害車両から剥離した塗膜片が被害車両の進行方向車線の中央部に集中して散乱していることが認められ、以上の諸点にかんがみると、被告がハンドルを右に切つたのは、中央線をはみ出して進行して来た被害車両との衝突を避けるためであつたという前記被告供述及び甲第九号証の内容には大きな疑問が存し、これをにわかに措信することはできないものといわざるをえない。

右の他には被害車両が中央線をはみ出して進行してきたことを示す証拠はなく、その他亡繁樹側に過失の存在することを認めるに足りる証拠もない。

四  原告会社は、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を請求するが、商法六六二条所定の保険代位によつて取得する権利はすでに被保険者たる被害者が第三者たる加害者に対して有している権利であつて、右代位によつて新たに発生する権利ではないのであるから、被保険者の有している権利が民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権である以上、これを商行為によつて生じた債権ということはできず、その遅延損害金については民事法定利率によるべきである。

五  以上によれば、原告英樹、同喬江の各請求は、各金二五二二万三六六八円から各損害填補額を控除した各金二二万三六六八円及びこれに対する昭和五六年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で、原告会社の請求は、金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し、原告らのその余の請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川畑耕平 鳥羽耕一 若林辰繁)

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